(1)そもそも台風とは
夏から秋にかけて日本へやってくることの多い台風。そもそも、台風とはどこで生まれ、どのように発達するのでしょうか。
台風とは、赤道付近の温かい熱帯の海上で発生する「熱帯低気圧」のうち、最大風速が17.2m/s以上になったものです。台風の中心付近は、下降気流で雲がほとんどない「台風の眼」ができることがあります。一方で、台風の眼の周りは反時計回りに風が吹き込んでらせん状に昇り、発達した積乱雲が壁のように高く連なります。これは「アイウォール(眼の周りの壁雲)」と呼ばれ、この雲の下では激しい雨が降り、風も強まります。
台風の構造(断面図)各地点の観測史上1位の値を使ってランキングを作成
データ出典:気象庁
(2)なぜ日本に近づいてくる?
台風は一年間に、平均で約25個発生しています。日本に接近するのは約12個で、夏から秋にかけて多くなります。では、なぜ夏から秋にかけて日本にやってくることが多いのでしょうか。
月別の台風発生・接近・上陸数の平年値(1991~2020年の30年平均)出典:気象庁
実は台風は自分で進む力が弱く、台風の周りで吹いている上空の風にのって移動します。台風は春先には赤道に近い低緯度で発生し、フィリピンやベトナム方面へ進むことが多く、日本にはあまりやってきません。ところが、夏になると台風の発生する緯度が少し高くなり、日本の南東に居座る「太平洋高気圧」の縁に沿って北上し日本に近づくことが多くなります。また、秋になると日本付近の上空を流れる、「偏西風」という東に向かう風に乗って、時計回りに日本付近を横切るように進みます。このため、台風は夏から秋にかけて日本列島へ近づくことが多くなり、甚大な被害をもたらすのです。
月ごとの代表的な台風の道路(日本付近)『すごすぎる天気の図鑑』荒木健太郎 著/KADOKAWA発行 を参考にイラスト作成。
Infographics by HIROKI MASUDA ©GLOBERIDE
(3)将来は猛烈な台風が増える!?
前回、地球温暖化の影響で大雨が増えているというお話をしましたが、台風への備えも強化する必要がありそうです。
近年の研究で、過去40年に東京など太平洋側の地域に接近する台風が増えていることがわかりました。また、台風の強さがより強くなっていること、移動速度が遅くなっている(=影響が長引く)傾向にもあります。
さらに、このまま温暖化が進んだ場合、日本の南の海上では猛烈な台風の頻度が高まると言われています。台風が発生したら、気象庁のウェブサイトで台風の進路を調べたり、皆さんの住む地域に大雨や暴風など、警報級の現象が予想されたりしていないか(早期注意情報といいます)、すぐに調べるようにしましょう。
Column釣りと天気
「台風のとき、魚たちはどうしているの?」Text/OrangH
台風が接近や上陸すると、私たち人間は暴風や豪雨に悩まされることになるが、そんなとき、魚たちはどうしているのだろうか? 海の場合、風や波で表層部は荒れているため、比較的穏やかな深場に移動して、岩の隙間などに避難している魚が多いという。川の場合、魚は深く潜ることができないので、少しでも流れが穏やかな場所を探して、そこでじっとしているのだとか。
このような魚の生態は釣り人の間では当たり前の知識かもしれないが、台風の際に、実際に、魚の生態を調べることは難しい。そのため、北海道大学がダムの試験放水を利用して、大雨による河川増水の際の渓流魚の生態を研究している(2013年発表)。それによると、河川が増水すると渓流に棲む魚は流れが弱くより安全な、小さな支流に逃げ込むことが検証されたそうだ(魚種によって反応は異なる)。
台風の通過を安全な場所でじっと待つのは、人間も魚も一緒。台風による暴風や豪雨の際は無理をせず、天候の回復を待ちたいものだ。
参考:北海道大学「The fishermen were right: experimental evidence for tributary refuge hypothesis during floods.(釣り人は正しかった:洪水時における支流避難仮説の実験的検証)」 など
太田絢子さん(気象予報士/防災士)
中学生のころから気象に興味をもち、大学在学中に気象予報士試験に合格。卒業後は損害保険会社に就職し、交通事故や自然災害に遭った人へのサービス業務に従事。自然災害が多発するなかで、災害の被害に遭う人をゼロにしたいと思うようになり、気象キャスターへ転身。2019年4月からは地元の東海地方で活動中。